現在の仕事についた経緯
月並みな言葉かもしれませんが、一人の医師との出会いが現在の仕事についた経緯となります。
10年ほど前、懇意にしていただいていた旧知の社長から、「“びんぼうゆすり”を行う器械を久留米大学の名誉教授の監修を受けて作ったから販売を手伝ってもらいたい」という依頼を受けて入社しました。
始めはびんぼうゆすり?と感じましたが、患者さんの利益のためを優先し、ご高齢にもかかわらず診察と研究を続けておられる姿に感銘を受けました。当時ほとんど知られていなかったジグリング(びんぼうゆすり運動)を普及するには、先生の秘書として活動しなければならないと考え、出会いからご逝去されるまでの数年間、先生もお忙しい中ほぼ毎週のように教えをいただいたこともあり、現在もこの仕事を続けています。
仕事へのこだわり
変形性股関節症の保存療法としてのジグリング(びんぼうゆすり)は、もともと自力で行われてきましたが、股関節が不自由な上に、患者さんの80%以上が女性で、自力でスムースにジグリングを行うことが難しいという背景があり、医師の監修を受けた自動ジグリング器が開発されました。
変形性股関節症の治療は、通常、保存療法(運動療法)を行い、その経過を観察し、症状の改善等の効果がみられなければ、手術(関節温存手術、人工関節置換術)を行います。
しかし、人工関節への置換が当時あまりにも増加しており、私が師事した先生は、本当に患者さんのためになっているのかと疑問を感じられておりました。よくおっしゃられていた言葉に「一度人工関節にしたら二度と元の関節には戻れない…。再生医療は、医療の敗北、治すことができないから、再生を行う。」というものがあります。先生はもちろん医師ですから、関節温存手術も人工関節の手術もされておられ、治療効果のことは十分にご承知の上での言葉で、医師として非常に重たい言葉を学会等でも発信されておられました。
先生の言葉の裏には、経済活動としての医療に対する警鐘と本来優先されるべき患者さんの利益が希薄になってはいないかという危惧がありました。
私は医師ではありませんので、直接的にこうした状況を変えることはできませんが、先生の“患者さんの利益のために”という言葉に共感し、保存療法の普及に努めています。患者さんの利益とは、治療を行い症状を改善することですので、その選択肢の中にはもちろん手術が含まれることは言うまでもありません。治療の過程において、その方法に齟齬のないよう、医師、患者さん双方に情報を発信し続けたいと思っております。
若者へのメッセージ
私は、幼い頃、祖母からよく「人様の役に立つ人間になりや」と言われて育ってきました。人にはやりたいことと、やるべきことの二面があり、誰もみなその狭間の葛藤の中に生き、生かされていると思います。
やりたいこと、自分のためを優先すると、そこには争いごとが起こりやすくなります。仕事は事に仕えると書きますが、やるべきこと、事に仕え人に仕えることを優先すると争いは減るのではと考えます。
私自身、人様の役に立つ人間にはまだまだ及びません。生きている限りどうすればよいかを学び続けるしかないと思っています。
若い方とお話するときによくする話ですが、私は純粋に若い方の考えの方がいつも正しいと言います。何故なら、素直に世の中をみて、感じられる感性をもっているからです。でも、その正しいことを本当に正しいとするには、利他の心の裏付けが必要で、年を重ねるに従い、これがとても難しいことだとようやく分かり始めてきました。
同じ時間、時代を生きている中で、私も皆さんと一緒に、本当に正しいことについて学ばせていただければ幸いに思います。