現在の仕事についた経緯

私が経営者として会社を継ごうと決意したのは、小学6年生のころです。当時、2代目社長であった伯父が突然病に倒れ急逝し、当時専務だった父が急遽社長に就任しました。伯父の葬儀の際、創業者である祖父は息子を亡くした悲しみから立ち上がることができなくなってしまい、その姿は今でも忘れられません。
「僕が会社を継ぐから、元気を出してね。」父に促されるまま祖父に伝えたこの言葉は、12歳の私の純粋な気持ちでした。思えば、孫のなかで男は私だけであり、父が祖父を元気づけるために私を促した出来事ですが、子ども心に「自分がイケダガラスを継ぐんだ」という思いが芽生えました。
翌年には創業者である祖父も亡くなりました。祖父は、新潟県佐渡ヶ島から上京し、丁稚奉公を経て1943年に創業し、小さい会社から地道に事業を発展させてきました。伯父の急逝の翌年に亡くなり、会社を継ぐ決意はさらに強まっていきました。

仕事へのこだわり

現在、当社では挑戦・成長・利他の心という三つのキーワードを、行動指針として掲げています。会社が従業員に期待する行動姿勢を現したものであり、それが社員評価の軸になっています。行動指針は、当社の歩んできた歴史と、私個人の価値観を反映させたものです。
私は、入社してすぐに取引先の米国工場に修行に行かせてもらい、帰国してからは自社の工場を順にまわり、その後営業を経験して本社勤務となりました。仕事に対しての自信は全くなかったので、入社してからは、とにかく「逃げずにやり切る」ということだけを意識して走ってきました。事業継承のプレッシャーもあり、常に時間に追われている意識があり、人の2倍、3倍の仕事をしようと思っていました。この時期に現場での実務を経験することができたのは、今も私の仕事の礎になっています。逃げずにやり切る、失敗しても学びを得て次につなげる、という姿勢で仕事に向き合ってきたことは、行動指針の“挑戦”、“成長”という言葉に繋がっています。
また、“利他の心”については、自分自身を振り返ったとき、私は自分のためよりも人のために行動を起こす方が、使命感を持って頑張れると気づき、そうした想いが反映されています。
利他の心を示す1つの例としては、ある製品の立ち上げのプロジェクトがあります。これは海外の協力会社で生産する製品でしたが、要求品質が極めて高く、スケジュール的にも本当にギリギリの状態でした。なんとか計画通りに製品を納めることができ、結果的にはお客様からも高い評価を受けることになるのですが、当時は、当社も協力会社もお客様も、携わった人はみんな、自分のことは二の次で“相手のために何ができるか”ということを考え、必死でやっていたと思います。こうした経験もあって、人のためを思って仕事に向き合い、行動を起こすということは、良い仕事をするために欠かせない大切な要素だと感じています。
挑戦・成長・利他の心というのは、私自身の信念です。社内においても、従業員には常にこの行動指針を語りかけています。

若者へのメッセージ

まず、自分の興味のあることや、好きなことを追求して、広く見聞を広めることが大切だと思います。スポーツでもゲームでもマンガでも、何かひとつ、これといった分野を持てるといいですね。AIを活用するのはこれから必須のスキルになりますが、経験を積むという観点では、安易にAIに答えを求めず、現地・現物・現実の3現主義で、本物に触れて自分の感性を磨くことが大切です。
現代はVUCAの時代(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性) )と呼ばれています。いわば、先の見通しが立てづらい時代、答えのない時代です。
また、日本は少子高齢化が急速に進み、2050年の生産年齢人口が約5300万人(2020年比で約3割減)に減少するというデータもあります。人手不足の影響は、これからの日本経済にとって切実な課題です。
これからの人財に求められることは、自分の頭で考え、自分なりの答えを見出すことです。リスクをとって挑戦した人に、チャンスは訪れます。もっと言えば、早い段階で多くの失敗を経験した方がいいです。失敗の作法のようなものが身につきますので。
挑戦する勇気さえ失わなければ、何度でもやり直すことができます。お金も地位も、失ってもいくらでもやり直せますが、勇気と気概を失ったらおしまいです。是非、チャレンジングスピリットを失わずに、自分の信じる道を歩んで頂きたいと思います。