現在の仕事についた経緯

編集スキルがないことで苦労した経験がきっかけです。
私は昔、ファッションや商品などの広告塔としてメディア露出のある仕事をしていました。芸能界は人と違うことをしなければ生き残れない世界なので、続けるのは大変です。
私がしていたお仕事は、力をつけていくとタレント、女優という具合にステップが上がっていきます。仮に女優が最高峰だとすれば、その女優さんが映画に出演することが最高峰の仕事だと私は考えました。
そこで、「映画の脚本が書ける女優さんであればニーズがあるのでは?」と考え、Wordを使って脚本を書き始めました。その時のインスピレーションは、ロケバスから外を眺めていたときに見た高校生2人組の姿でした。
彼女たちの後ろ姿を見て、物語の大部分がイメージとして浮かんできました。その後、2年半かけて実体験を加えながら脚本を完成させました。
映画を制作したいと思う方や脚本を書きたい方は多いでしょうが、実際にそれを成し遂げることには満足感や達成感があります。
その脚本を持って当時仲の良かった監督やプロデューサーに「いつか映画化してみたいです」と相談したところ、「今やろう」と言われました。「なるほど、この情熱のまま突き進んでしまおう」と考え、私は25歳のときに出資者を募るための企画書を作成し、350万円を集めました。その資金は機材費や撮影時の食事代などに充てられました。
1年ほどかけて、私たちは1本の映画を完成させました。勢いのみで脚本、演出、出演も達成することができましたが、唯一編集がうまくいきませんでした。
そのため、編集のプロの仕事場についていって、指示を出すことになりました。「そこのカットをもう少し短くしてください」「さっきの映像に戻してください」「この部分を緑色っぽく加工したいです」など、さまざまな要望をお願いしました。
しかし、約90分の映像編集に何度も口を出されるのは大変だったのでしょう。編集さんからため息をつかれることもありました。そこで、「もし自分で編集できたら、どれだけ作品にこだわれただろうか」という疑問が湧き上がりました。
それをきっかけに、26歳で制作会社に入社し、新たな挑戦を始めました。

仕事へのこだわり

当社には「この1本で誰かの人生を変えていく。」というミッションがあります。SNS用の動画コンサルが利益につながるとしても、このミッションの実現に至らないものに着手する必要はないと考えているからです。
そもそも映像と動画は、似ているようで違います。社内でも話題にあがりますが、1番の違いとして、動画制作にはディレクターが存在しません。
映像制作ではディレクターがいて、絶対に見てほしい「1コマ」「ワンカット」「数秒」があります。たとえ全てを視聴してもらえなかったとしても、絶対に見てほしいその数秒に魂を込めるのです。
動画は大量生産したものを露出し、その中からPDCAを回すという形をとっています。つまり、種類として制作しているもの自体が異なるのです。もちろん映像だけでなく、動画も誰かの人生を変えるきっかけになると思います。しかし、私たちが掲げるビジョンにも適していません。

先ほどミッションを紹介しましたが、当社には3つのビジョンも存在します。
それは、「私たちは、感動を人生の糧にする社会をつくります。」「私たちは、何もなかった日常に彩りをもたらす社会をつくります。」「私たちは、ひとりひとり意志を持って生きていける社会をつくります。」です。
人の心を動かすことは動画でもできますが、私たちは約12年間、SNSよりも時間と費用をかけた映像制作に特化してきました。フリーでも作れる動画はたくさんあるので、そこにあえて私たちが進出する必要性はないかなと考えています。
もちろん自社宣伝用に公式インスタやX(旧Twitter)などを利用することはありますが、仕事を受注するという形では手掛けていません。

こだわりや譲れない軸はとてもシンプルです。ミッションやビジョンを体現できる行動か否か、自分自身それを実感できているか、メンバーも実感できているかです。
メンバーが誰1人やりたくない仕事はしなくていいですし、誰かの心が疲弊するような仕事は案件として受注しなくてもよいと思っています。そのため、やらないことを決めることにこだわっているのかもしれません。
立ち上げ当初は来るもの拒まずで一生懸命やっていました。3期目くらいのときに美大インターン生1名が当社に入ってくれたのですが、その子から「ミッション・ビジョンはありますか」と聞かれました。
「ミッション・ビジョンのない会社ってどうなのでしょう」と言われたことがショックで、そこから何のために働いているのかという問いに私自身が真摯に向き合うようになりました。
立ち上げ当初は単純に「お金を稼ぎたい」という思いがありました。10年という長い期間経営していると、それなりにもっと上を目指すこともできますが、それが人生で得たいものではないような気がしました。
「自分が立ち上げた会社にたまたまご縁があって集まってくれたメンバーの幸福度を最大化したい」私にとっての答えはこれだと思いました。そのためにはミッションやビジョンを掲げて、メンバー全員が同じ方向を目指せるようにしなければならないと思いました。
ビジョンにもありますが、メンバーの1人ひとりが意志を持ってくれるようにという思いも込めて、「作りたい社会につながっている行動なのか」にこだわって仕事をしています。

若者へのメッセージ

私は起業するなら少なくとも仲間と始めたいです。1人で始める方ももちろんいると思いますが、自分のためだけに炎を燃やし続けるのは難しいのではないかと考えています。それでもずっと頑張っている方もいると思うので、私の個人的な意見にすぎません。
しかし、仲間と会社を立ち上げたり、あるいは立ち上げ後に誰かを雇用したりすることは、頑張る理由になると思います。自分1人だったらいつでも辞められますが、人の人生を背負っているという責任感が自分を強くしてくれます。
また、経営者の器になれたのは、稼ぎ方ではなく仲間を持てたからだと思います。私は美大生と立ち上げましたが、共同創業者を見つけることを勧めているのではありません。雇用形態も、必ずしも正社員でなくてもよいと思います。
守れる誰かと常に一緒に働くということは、やりたいことだけをやり続けるための燃料切れのときに、踏ん張れる強い要素になると思います。
お金儲けのためだけに始めても続かないので、賛否両論あると思いますが、稼ぐことが第一の目的であれば起業はおすすめしません。
大学を卒業して、学生起業家として活躍している方も少なくないでしょう。ただ、人脈がないまま世の中に出ていきなり起業をすると、挫折する確率のほうが高いのではないかと思います。
20代でしか学べないことは経営以外にもあるはずなので、まずは会社に入社して、そのあとに起業することを私はおすすめします。
現在、会社員として働いていて起業を検討している方へもメッセージを送らせていただけるとすれば、現在の年収を下げたくない方は起業しないほうがよいと思います。
身を削るタイミングはどうしてもあります。パートナーが100%応援していて、身を削っても大丈夫という方に起業は向いていると思います。